八月の中旬から九月の上旬、鎌倉のそこかしこにユリの花が咲く。白く大きく草丈は高いが、ユリ独特の匂いは強くない。タカサゴユリという台湾からの移入種だ。丈夫でどこにでも生え、わが家の庭にもいつからか思い出せないくらい昔からある。夏休みの残り日数が気になるころ、庭の片隅にこの花が咲くと、夏の終わりを告げられたようで物寂しい気持ちになった。
　一五年ほど前の秋、家の廻りでやや大がかりな工事があった。同じ敷地にあった隣家が解体され、タカサゴユリの花が咲く一角には四、五〇センチ土が盛られた。もうここに花が咲くことはあるまいと思った。
　ところが翌年、何ごともなかったかのように、ユリは盛り土の下から茎を伸ばし、花をつけた。それどころか日当たりがよくなったためか、数年で数を増やし、今までなかったところにも群れるように咲き出した。おかげで、お盆の仏花を何年も買わずに済ませている。
　ある夜、満開になった庭のユリが芳香を漂わせているのに気づいた。いつもは鼻を近づけてやっとかすかに感じるほどなのに。一輪一輪の香りは弱くても、いくつも咲きそろうとはっきりと匂うのだろうか。夜飛ぶ虫を引き寄せるため、暗くなると香るのか。それとも月光に浮かび上がる白いユリの姿が、私の嗅覚を惑わせたのだろうか。

（片岡　夏実）