海辺を走るバス

 裏八幡に住んでいた小学生のころ、市営プールには鎌倉駅からオレンジ色の江ノ電バスで行った。数本あった海岸廻りの路線は、必ず市営プール前の停留所を通る。バスは長谷観音の交差点を左折して大仏廻りの路線と分かれる。長谷駅を過ぎ、突き当たり(鎌倉ホテルがあった)を再び左折して狭い道を抜けると、車窓に海が開ける。もちろん、この路線を通勤通学や観光に使う乗客もいただろうが、夏休みの日中は主にプールに向かう人たちと、浮き浮きした気分を乗せていた。
 久しく利用しなかった海辺のバス停の時刻表に、最近目を留め、驚いた。土曜と休日の朝に一本あるだけだ。調べると、平日朝に二本の鎌倉〜辻堂の便が数年前に廃止され、代わりに七里ガ浜まで現在のダイヤで運行されるようになったらしい。
 暇に飽かせて海岸廻りのバスに乗ってみた。鎌倉駅八時二〇分発七里ガ浜行きは、まだ新車の匂いがするミニバスだった。客は私ひとりだけだ。小中学校が夏休みに入って最初の週末、もしかするとプールへ行く子どもが乗っているかと思ったのだが。
 高揚感もなくバスは市営プール前に着き、目的地はあるが目的のない旅は一〇分ほどで終わった。開場までまだ三〇分も間があるプールの門に、人の気配はなかった。

(2017年8月・片岡 夏実)


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