もうひとつのアジサイ
今年のアジサイシーズンもそろそろ終わる。鎌倉を埋めつくしたアジサイ見物の観光客たちの喧噪も、もうじき去っていく。梅雨が明けると人の足は海へと向かう。そうして、誰もアジサイのことなど考えもしなくなったころに、ひっそりと咲くアジサイがある。
初めて気づいたのは、たしか一五、六年くらい前の夏、北鎌倉あたりを歩いていたときだ。それまでにも目にはしていたのだろうが、季節はずれのガクアジサイがまだ残っているくらいに思っていたのかもしれない。ところが、日陰の斜面に咲きかけの花を見て、一瞬、なにかに化かされたような感じがした。大きな玉のような蕾が割れて、そこからアジサイらしき花が顔を出そうとしているのだ。まだ割れていない直径二センチくらいの玉を、茎の先端につけた株もある。これは本当にアジサイなのか?
あとで調べて、タマアジサイという、そのままの名前の植物があることを知った。花期は普通のアジサイよりひと月以上遅く、七月から九月だという。
仲間より遅れて奇妙な花のつけ方をする、なんとなく茶目っ気のあるこの植物を、私は好んでいる。暑い盛りにわざわざこれを見に行く人も少ないだろうから、人混みを気にせずのんびりアジサイを眺めるには、うってつけだ。
(2017年7月・片岡 夏実)
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