道ばたのビワ

 ビワが好きだ。なんとなく気の滅入る灰色の梅雨空の下、八百屋やスーパーマーケットの店頭で鮮やかな橙色を見ると、それだけでうれしくなる。皮をむき、つややかに濡れた果肉が顔を出せばなおさらだ。
 子どものころ住んでいた家の庭には、ビワの木があったが、実がついたためしはなく、そう簡単にはならないのだろうと思っていた。ところが去年の冬、道沿いの家の庭で、ビワの木が花をつけているのに気づいた。注意して見ると、ビワの花は思いのほか鎌倉のあちこちで咲いていた。民家の庭先だけでなく、いつも通る切通しの斜面にも。誰が植えたわけでもないのに、いったいどこから種が来たのだろう。鳥が落としていったのか? 初夏になれば、実がつくかもしれない。
 春が過ぎ、初夏が訪れて、予想通り小さな実がいくつもついているのに気づいた。実は少しずつ色づき、そして、これも予想通り、ある日ばらばらに噛み散らかされて、地面に落ちていた。熟してくるが早いか鳥、リス、ハクビシンなどが食べてしまったのだろう。動物はこういうことにかけてはめざとい。なにしろそれが仕事なのだから、片手間で張り合っても勝ち目は薄い。それに生活がかかっていない者が、かかっている者から横取りすることもあるまい。

(2017年6月・片岡 夏実)


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