ミモザの憂鬱
横須賀線で東京方面に行くとき、たいてい先頭車両に乗る。そのほうが空いているからだ。鎌倉駅で上り電車を待つあいだ、プラットホームから線路を挟んで正面に、瀟洒な洋菓子店が見える。入り口の脇にはミモザの木があり、春先には黄色く細かい花がいっぱいに咲く。
以前は、この花が咲くと少し憂鬱になった。杉の花粉が多くなるのと同じ頃だからだ。ミモザから花粉が飛んでいるような錯覚さえ感じた。とんだ言いがかりだ。ミモザの花粉症もあるらしいが、これはまた別の話だ。
幸い私の症状は軽く、飛び始めに少し目と鼻がかゆくなる程度で、そのうち慣れるのか気にならなくなる。一方で重症の人にとって、杉の多い鎌倉は鬼門とされているらしい。しかし私が一番ひどい症状を経験したのは、東京に勤めだした最初の春のことだ。一日じゅう目がかゆく、鼻がむずむずし、ついには鼻のかみすぎで粘膜が傷ついて、何もしないのに鼻血が出るようになった。
花粉症の症状には、大気汚染も関係しているという説がある。花粉の季節に都心に通ったことのなかった私には、初めてのダブルパンチが効いたようだ。ただ、それで慣れたのか、翌年からはそれほど重くはならず、今ではミモザを見て素直に春を感じている。
(2017年3月・片岡 夏実)
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