露店の誘惑
昔、初詣客でごった返す鶴岡八幡宮の上空には、よく風船が浮かんでいた。その下では、買ってもらった喜びもつかの間、うっかり手放してしまった子どもが泣いていたことだろう。無事に持ち帰っても、風船ははかない。一日か二日でしぼみ、初めはそれでも健気に飛ぼうとするが、やがて力尽きる。
最近は風船の露店が少なくなったような気がする。あってもアルミ風船か、バルーンアートみたいなものが主流のようだ。お面はキャラクターこそ移り変わっているが、今もよく見る。安全基準が厳しい現在ではどうか知らないが、昭和の時代のものは、しばらくすると割れ、そこに皮膚が引っかかって痛い。そのうちゴムが伸びるか根元から取れ、お役ご免だ。
そんなものがなぜか、子どものころは無性に欲しかった。一度父に、おもちゃ屋で買ったほうが安くてものがいいぞと諭されたことがある。そうかもしれない。でもやはり、お祭りの露店で買いたかった。われわれ大人が屋台で呑んでいるところに、訳知り顔の子どもがやってきて「家で呑んだほうが安いよ」と言ったところで、納得して帰るだろうか。子どもが露店のおもちゃをせがむのも、たぶん同じことなのだろう。もちろん玩具店の「ちゃんとした」おもちゃも欲しいし、家でも呑むのだけれど。
(2017年1月・片岡 夏実)
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