決してこない「いつか」

 橋を渡ったところで風景に違和感を覚えた。あるはずのものがない。しばらく来なかったから、場所を勘違いしたのだろうか。そうではなかった。やはりそれは、なくなっていた。
 滑川に沿ったとある一角は、対岸のバス通りから眺めると島のような雰囲気だと、私は昔から思っている。もちろん島であるわけはなく、自分でもなぜかわからない。このあたりで遊んでいた小学生の頃の第一印象が、今も生きているのだろう。
 区間の真ん中にかかる小さな橋の向こうには、民家と並んで商店や飲食店がある。「島」の目抜き通りのような、好ましいたたずまいだ。その中の一軒が何となく気になっていた。住宅街にほどよく溶けこんだ、和食の店だ。たとえば晩秋から初冬、夕闇の中で橋を渡って、この店の明かりを目指す。そして夕食を食べ、ビールか、あれば日本酒を呑むというのが、心豊かになることのように思われた。
 だが思いながらも、自宅からかなり離れていることもあり、先延ばしにしていた。そしてある日、店がないことに気づいた。この数年、こんなことが何度あっただろう。いつか行こう、そのうち再訪しようと思っていたところがなくなっていることが。「いつか」があると思ってはいけない。思い立ったら即、行動すべきだ。殊勝な心がけだが、呑みに行く話なんだよね。

(2016年11月・片岡 夏実)


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