サワガニ論争
鶴岡八幡宮の西の鳥居をくぐって参道に行き当たるまでの左側に、玉石を積み上げた高さ数十センチの低い石垣が続いている。石垣の根元には、どこからかちょろちょろ流れてくる水で細い水路ができており、小豆粒ほどの小さな巻貝がいた。雨で水量が増えると、石垣のすきまに棲むザリガニが這いだして、赤い大きなはさみを振り上げた。たまに青白いたおやかな色のサワガニの姿も見られた。
と言うと、本紙編集発行人の島崎青蛙から物言いがついた。サワガニが青いはずがない、あれは赤いものだというのだ。しかし私が持っている小学館の図鑑では、サワガニは青く描かれている。きっとゆでたカニでも見たのだろう。
すると島崎は、スマホとかいうこざかしい板で検索し、勝ち誇ったように画面を突きつけてきた。そこには赤茶色のカニの画像ばかり、ずらりと並んでいた。どうも分が悪い。
調べてみると、青いサワガニは南関東沿岸部に分布し(そういえば南房総でも見たことがある)、内陸へ行くほど赤や茶色が優勢になるようだ。そして体色が違う理由はまだはっきりわかっていないらしい。私の中で常識が音を立てて瓦解した。
八幡宮の水路はコンクリート張りになり、サワガニが今でもいるかどうかはわからない。
参考文献:一寸木 肇「サワガニGeothelphusa dehaani (WHITE)の体色変化とその分布について(予報)」(1976)http://ci.nii.ac.jp/naid/110002698452
(2016年10月・片岡 夏実)
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