葡萄茂れる庭

 一昨年の春、庭の隅に見慣れない植物が生えているのに気づいた。葉の形はブドウのものに似ている。茎もつるになるようだ。今までにこんなものを庭で見たことはないし、もちろん種をまいた覚えもない。抜いてしまおうかと思ったが、成長するとどうなるのか興味があったので、そのままにしておくことにした。ブドウの一種なら、実が食べられるかもしれない。
 夏、その植物はつるを伸ばし、アジサイと夏ミカンの木にからまって生い茂った。見れば見るほどブドウらしい。やがて細かく枝分かれした軸の先に、薄緑色をした小さな花が開いた。店で売っているブドウのように房にはなっていないが、軸の形はよく似ている。かなり期待が持てそうだ。
 花が落ちたあとにはやはり薄緑色のまん丸い実がついた。それはおもちゃのピストルの弾丸くらいに成長し、秋が深まるにつれて明るい紫や空色に色づいた。しかし、鮮やかではあるが、果汁が入っている感じのしない不透明な色だ。
 これはノブドウといって、ブドウの一種だが食用にはならないことがわかった。焼酎に漬けて果実酒が作れるらしいが、いくら調べても真偽のはっきりしない薬効についてばかりで、味の話がいっこうに見あたらないことから、美味いかどうかはだいたい察しがついた。

(2016年9月・片岡 夏実)


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