アジサイ寺

 空はどんより梅雨ぐもりだが、アジサイの季節の鎌倉は、いつにもまして賑わっている。
 鎌倉でアジサイ寺といえば、真っ先に頭に浮かぶのが明月院と成就院だ。明月院は一九七〇年代すでに有名だった。もう一方の成就院は、七〇年代前半のガイドブックにはアジサイのアの字もない。八〇年代になると「鎌倉の名所になりつつある」という記述が見られるので*、その五年か一〇年のあいだに知られるようになったのだろう。初めは超メジャーな明月院に対する穴場の扱いだった。肩を並べるほどになったのは、おそらく二〇年以内の話だ。
 長谷寺のアジサイは、ここ一〇年ほどでのしてきた新参だが、寺自体が有名なためか、扱いを見ていると明月院、成就院と並ぶ昔からの名所のように思えることもある。もっとも十年一昔というし、明月院だってアジサイ寺として知られだしたころには、植えてから三〇年も経っていなかったのだから、別にいいのだろう。
 アジサイは丈夫で成長が早く、手もかからない。それで人が呼べるなら(呼びたければの話だが)、植えない手はない。そう思ったのか、何もなかった場所にいつの間にかアジサイが植わっていることがある。そして新しく植えた場所も、数年すると古くからの名所みたいに紹介されているのかもしれない。
*富岡畦草『鎌倉の散歩みち』(山と渓谷社、一九八三)

(2016年6月・片岡 夏実)


©copyright "かえると散歩" all rights reserved
webmaster@super-frog.tv