花見の季節
桜の開花宣言が出ると、みんなそわそわし始める。満開の日を予想し、その近くに花見の予定を入れる。その日を待つあいだ、気候や天候の具合で早まったり遅れたりしないか、当日は晴れるかと気が気でない。
開花宣言とか桜前線というときの桜は、ソメイヨシノのことだ。並木や公園に植わっているのは、ほとんどこれだ。接ぎ木で増やしたクローンなので、すべて同じ性質を持っていて、いっせいに咲きいっせいに散る。華やかで、花見向きだ。
でも、平安時代にさかのぼる花見文化の中で、ソメイヨシノが桜の代表のようになったのは、明治以降のことだ。育ちが早く見栄えがするという理由でさかんに植樹されたソメイヨシノは、景観を画一化し、多様性を奪い、短い期間に花見客が一極集中する原因となったともいえる。日本の都市計画を象徴しているような気がする。
ソメイヨシノが悪いわけではないけれど、それに振りまわされるのをやめれば、もっとのんびり楽しめるんじゃないかと、少し思う。鎌倉の山々を白や薄紅に彩るオオシマザクラやヤマザクラなどの野生種は、一本一本に個性があって、開花が早いものも遅いものもある。八重桜は一重より二週間くらい遅れるので、あわてなくても花見の季節は一カ月近く続く。
参考資料:阿部菜穂子『チェリー・イングラム 日本の桜を救ったイギリス人』(岩波書店、2016)
(2016年4月・片岡 夏実)
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