河口のカメ
買い物の道すがら、小さな川の河口近くにかかる橋から、いつも川をのぞき込む。夏には下流側の堰堤の上を、カニが歩いているのが見える。おそらくは海のカニだ。この辺はもう海水混じりなのだろう。
そこにある日、二〇センチほどもある甲羅を持つ生き物が現われた。一瞬、大きなカニかと思ったが、よく見ればカメだった。クサガメか何かだ。そのうちにそれは、ゆっくり下流へ向かって泳ぎ始めた。
カメの行き先に目をやると、三〇メートルほど先でカルガモの親子がのんびり餌を漁っていた。さらに三〇メートル向こうまで台風の余波が遡り、白く砕けている。そこから四、五〇メートルで海岸だ。このまま海に入ってしまわないか。少し心配になった。淡水のカメは海でも生きられるのだろうか。
一〇日ほど後、カメはまた橋の下にいた。上流側ではカルガモ一家が休んでいる。青緑色に光るカワセミが、橋の桁下に勢いよく出入りする。海の延長のように思っていた場所は、思いがけず川の生き物たちでにぎわっていた。
川と海のあいだに、たぶん明確な境界はない。あるとすれば人間の都合で作ったものだ。虹の色の変わり目がそうであるように、それは境界というより、どちらでもあり、どちらでもない領域なのかもしれない。
(2015年9月・片岡 夏実)
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