ぐるぐる
昔、鶴岡八幡宮の源氏池のほとりには滑り台があった。幼稚園の園庭の話ではない。園庭とは反対側の植栽の前だ。
それは古い江ノ電のような暖かみのある緑色に塗られ、背景の木々によく調和していた。白い滑走面は塗装ではなく、摩擦の少ない人造石のような素材を張った、凝った作りだった。かなり大きく、高さは二メートルくらいあったように思う。おそらく幼稚園の遊具だったと思うが、幼稚園児の頃これで遊んだ記憶はあまりない。よく遊んだのは小学生になってからだ。
この滑り台にはもう一つ特徴があった。滑降部が下に着くまでに一回転半ほどひねられているのだ。そのため限られたスペースで距離を稼ぐことができ、摩擦が小さいこともあって結構なスピードが出せた。誰からともなくこれを「ぐるぐる滑り台」と呼び、私を含めた近所の小学生は飽かず滑って遊んだ。
ぐるぐる滑り台がなくなったのは、一九八〇年代の終わりから九〇年代という漠然とした期間のいつかだ。ある日、久しぶりに池のそばを通ると、ふた回り小さく、パステルカラーのビニールひものようにてかてかしたプラスチック製滑り台に替わっていた。ぐるぐる滑り台は幼稚園児には少しスリリングすぎたのだろうか。それとも単に老朽化しただけだったのか。そしていつの間にか、プラスチックの滑り台も姿を消した。
(2015年4月・片岡 夏実)
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