谷戸ワープ
知人のセカンドハウスが南房総にあり、たまに厄介になっている。周囲は谷戸だが、鎌倉のように家が建て込んでおらず、 周知の通り鎌倉の市街は、入り組んだ谷戸に沿って発達している。要所要所には交通の便のために切通しやトンネルがあるが、それがないところでは、山裾をぐるりと巻いて遠回りを強いられる。それも鎌倉散策の楽しみだが、急いでいるときは直線ルートを取れたらと思うこともしばしばだ。
小学校五年生の頃、山の上の家から引っ越すことになったとき、裏八幡の小さな谷戸の家が新居の候補に挙がった。今となっては思い出せない理由で取りやめになったが、ここに引っ越していたら、私は第二中学校に通うことになっただろう。鶴岡八幡宮の中を突っ切り、国大付属をぐるりと回って西御門の山の中まで、たぶん二キロ近い道のりだ。子どもの足なら二〇分はかかる。
ところが地図で見ると、山越えの直線距離でわずか二〇〇メートルほどだ。道の表記はなく傾斜は急だ。でも、もしかすると地元の人しか知らない道があるかもしれない。ここに住んで第二中に通いたかったぞ。
もっとも山道では想像以上の時間がかかり、近道のつもりがかえって遅くなることもある。一月号にも書いたけれど、初めての道や夕暮れ時ならなおさらだ。近道を使うのは、時間に余裕があるときに試してからが無難かもしれない。
(2015年3月・片岡 夏実)
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