ヨウシュヤマゴボウ

 小学校一年か二年のとき、理科の授業で、果実の汁を搾る実験があった。リンゴやミカンをすり下ろしたり潰したりして、色や匂いや味を調べるのだ。生徒各自が持参した果物のほかに、教室にはヨウシュヤマゴボウの実が用意されていた。担任の指示でクラスの誰かが、家の近くから採ってきたらしい。
 この実からは、毒々しくも美しい濃い紫色の汁が取れた。近所にこんなすてきな実が生る草が生えている誰かが、私はうらやましかった。楽しい授業だったが、今考えると結構危なっかしいことをやっていたと思う。
 ヨウシュヤマゴボウは有毒植物だ。だが搾った汁はブドウジュースのようで、子どもなら飲みたくなっても不思議はない。先生の話か教科書の記述に「毒なので飲まないように」という注意はあったのだろうか。少なくとも私の記憶には残らなかった。これが毒草だと私が知ったのは、それから10年以上経った十代後半のことだ。
 以前はあまり見たことのなかったヨウシュヤマゴボウを、最近は空き地の隅などで、よく見かけるようになった。増えたのか、それとも私が注意して見るようになったからか。外来種で毒草で雑草と悪者扱いされる条件ばかりだけれど、個人的に何となく憎めないのは、きっとあの日この草の実に胸をときめかせたからだ。

(2014年11月・片岡 夏実)


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