クマゼミ
ここ十何年か、関東地方でクマゼミが増えたという話がよく聞かれる。南方系のセミで、本来は西日本を中心に分布していたのが北上しているのだ。温暖化が原因とも、苗木といっしょに卵が持ち込まれたからだとも言われる。だが、鎌倉には少なくとも四〇年前、すでにクマゼミはいた。
クマゼミは大きく堂々としたセミだ。子どもの頃図鑑で見て、実物を捕まえてみたいと思った。しかし手がかりがない。他のセミなら外に出れば木にとまっているし、鳴き声でわかる。クマゼミの声は聞いたことがない。図鑑には「シャーシャー」と鳴くと書かれている。文字にすると何となく涼しげだ。
実は、そうとはわからないだけでクマゼミの声は聞こえていたのだ。それは涼しげどころか「しわしわしわしししししじゃー」というような、せわしない、体感温度が五度は上がりそうなものだ。私はそれをクマゼミだと気づかず、アブラゼミか何かにたまたま変な鳴き方をするものがいるのかと思っていた。
印象でしかないが、クマゼミが増えたと言われる最近も、鎌倉では昔と変わった感じはしない。温暖化の影響もここでは受けにくいのだろうか。そして、未だに私はクマゼミの姿を見たことがない。鳴き声と同じで、目にしているのに気づいていないだけかもしれないが。
(2014年9月・片岡 夏実)
|