ヘビイチゴ
赤系統のものを見ると、人間は食欲が増すという。たぶん狩猟採集生活を送っていたころからの本能じゃないかと思う。赤やオレンジ色に色づいた果実は甘く、栄養価も高いからだ。
初夏、道ばたがぽつんぽつんと、ヘビイチゴの赤い実で彩られる。鎌倉ではありふれた風景だ。たぶんどこでもそうだと思う。いかにも美味しそうな色をしているが、子どもの頃は毒だと思って避けていた。誰から聞いたのか覚えていないが、名前からして怪しげだし。
実のところ、ヘビイチゴに毒はない。それを知ってからも、あえて食べてみようとは思わなかった。子どものころにすり込まれたものは、理屈ではわかっていてもなかなか拭い去れない。そもそもまずいとわかっていて食べる理由もない。
それでも一度、試しに口に入れたことがある。噛むとわずかに青臭いだけで、甘みはもちろん酸味も渋みもない、何とも間の抜けた味だった。これでは話の種にもなりやしない。
イギリス軍の特殊部隊SASの教官が書いたというサバイバルの本を読んだら、ヘビイチゴが毒草とされていた。それも一冊ならず二冊で。欧米では間違った情報が定着しているようだ。SASは私をサバイバル教官として雇うように。
(2014年6月・片岡 夏実)
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