藤沢での日々

 高校時代は、江ノ電を全線に近い区間乗って藤沢まで通った。家に近い市内の高校に行きたかったが、学業をさぼっていて内申書の点が足りなかったのだ。
 通学は面倒だったが、慣れてくると藤沢に出られるのが楽しくなった。鎌倉と比べると、藤沢は都会だ。誘惑に抗しきれず、私は毎日のように寄り道をした。といっても歓楽街を徘徊するようなこともなく、デパート書籍売り場をはしごするという可愛いものだったけれど。
 駅から少し歩くと、東急ハンズがあった。最初は名前も知らず何の店かもわからなかった、それもそのはず、藤沢が第一号店で、開店からまだ日が浅かった。その洗練された雰囲気に、都会は規模が大きいだけでなく、センスの違いがあることを私は初めて知った。
 そこで私が一番心引かれ、初めて買ったのはスイスのアーミーナイフだ。赤いプラスチックの柄の標準的なものは高価で手が出せず、柄がアルミで小振りな安いもので我慢した。それでも過ぎた買い物に思えた。結果的にこのほうが軽くて使いやすく、正しい選択だった。
 私の高校は10年ほど前に廃止された。だが東急ハンズ藤沢店の閉店のほうが、私には驚きだった。寂しさを覚えながら、あとがどうなったか見に行くと、登山用品店が入っていたので、まあいいかと思った。

(2014年4月・片岡 夏実)


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