下を向いて歩こう

 自分が梅や桜で季節を感じるようになったのは、いつからだろうとたまに思う。子どもの頃、春を告げる花として、桜はさほど重要ではなかった。花がすみした山を見れば、何とはなしにうれしくなったし、通学路の桜並木や鶴岡八幡宮の桜を見事だとは思ったけれど、春の到来を実感させるのは、足元に咲くオオイヌノフグリやナズナやハコベやスミレの花だった。下ばかり見ている子どもだったのかもしれない。
 オオイヌノフグリの花は、小さくはかないようでいて、色彩が与える印象は力強い。青い点々が地面にちりばめられているのを見ると、気もそぞろに動き回りたくなった。この花の名前を知ったのは、かなりあとになってからで、その由来を知ったのはさらにあとだ。初めは、何で犬のふぐりなんだと思った。実の形が似ているのだというが、花が落ちると他の草と見分けがつかなくなってしまうので、写真でしか見たことがない。
 スミレの種類は多いが、私はタチツボスミレしか知らない。この名前は、むかし住んでいた家の近所の女の子が教えてくれた。近頃よく、石垣の隙間からスミレが生えているのを見かける。あの中にたぶんタチツボスミレもあるのだろう。私には見分けられないけれど。
 たまには下を向いて歩こう。人にぶつからない程度に。

(2014年3月・片岡 夏実)


©copyright "かえると散歩" all rights reserved
webmaster@super-frog.tv