コロッケ

 三月にリニューアルオープンした元の江ノ電鎌倉名店街は、すっかり様子が変わっていた。これまでのように駅の外からは入れず、扱う商品も土産物じみたものばかりになった。なにより肉屋の「ニュークイック」がなくなってしまった。江ノ電の利用客、もっと言えば観光客に特化した店になったようだ。
 それまでも鳩サブレーや井上蒲鉾のような鎌倉名物の店はあり、乗降客の利用も当然期待していたわけだが、以前は観光客相手ばかりでなく、地元住民向けの店もあった。その代表格がニュークイックだった。
 肉はもちろんのこと、コロッケやフライなど総菜も充実していた。シンプルなコロッケは、五〇円くらいだ。ソースをかけなくても味がしっかりしていて、ボリュームもあった。もとより観光客を意識したものではないが、ここのコロッケを江ノ電のホームや路上でぱくつく人も多かった。旅番組で取り上げられてもいいくらいだ。
 そうは言いながら、しばらくニュークイックには立ち寄っていなかった。いつでも、いつまでもそこにあるものだと思っていたからだ。変わらぬものなどないのだけれど、変わって欲しくないものにかぎって変わってしまうのはなぜだろうか。
 もう一度、ここでコロッケと焼き鳥を買い、ビールを持って源氏山に花見に行きたい。

(2013年12月・片岡 夏実)


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