ハナムグリ

 切り通しの道を歩いていると、足元を白い芋虫がむくむくと横切った。ハナムグリという甲虫の幼虫だ。なぜわかったかと言えば、背中を下にあお向けで這っていたからだ。昔読んだファーブルの『昆虫記』に、ハナムグリの幼虫を机の上に置くとそのような動きをすると書かれていた。しかし実際に見たのは初めてかもしれない。
 成虫なら毎年のように見ている。鎌倉ではありふれた虫だ。五月頃から活動を始め、甲虫にしては勢いよく飛び回る。子どもの頃には捕まえようとずいぶんあとを追ったが、まず追いつけることはなかった。
 土の中にいるハナムグリの幼虫がどうして舗装道路に出てきたのだろう? 切り通しの斜面が崩れて、転げ落ちたのか。このままでは、人に踏まれるか干からびるかしてしまう。家に連れて帰り、庭に放した。用事を済ませて庭に戻ると、土に潜ったらしく姿はなかった。
 しばらくして、種をまくために庭をいじっていると、この幼虫が穴の中からむっくりと頭を起こした。座り込んで、こちらを見ているかのようだ。埋め戻して、上から菜の花の種をまいた。菜種の莢がはじける頃、運がよければまた会えるかもしれない。その時には白いむくむくではなく、つやつやした堅い殻に包まれているだろう。

(2013年10月・片岡 夏実)


©copyright "かえると散歩" all rights reserved
webmaster@super-frog.tv