天然のクーラー
道が細く渋滞が多い鎌倉では、自転車はいい移動手段だ。坂道を厭わなければ。旧鎌倉に出入りする切り通しを越えようとすると、頼朝がここに幕府を開いた理由を脚と心臓で思い知る。
私も以前よく極楽寺坂を自転車で通った。坂ノ下側からの登りは、成就院の墓地が途切れたあたりがきつい。特に夏は、体から出る熱気と湿気がまとわりついて、漕ぐ気力を削がれる。
少し先の岩肌に、腰をかがめた人が入れるくらいの大きな穴が二カ所、口を開けている。なかば落石で埋まり、奥は暗くて見通せない。前に立つと冷たいそよ風が吹き出していて、汗ばんだ体に心地いい。そこでしばらく涼んで、気力を回復させてからまた坂を登った。
そのうち穴に岩や土砂が詰め込まれ、上に崩落防止のネットが張られた。初めこれは中世の遺跡「やぐら」だと思っていたので、乱暴なことをすると少し腹が立った。だが、これが中世のものであるはずがない。今の極楽寺坂は、近代になって掘削されたものだからだ。この穴は太平洋戦争末期、本土決戦に備えて掘られた壕だ。
それでもそれは、現代史の遺物として、保存しなくていいのだろうか。おそらく振り向く人も少ない穴の前に久々にたたずむと、埋め残った隙間から漏れる、かすかな冷気を感じた。
参考資料:鎌倉市中央図書館近代史資料収集室、CPCの会編『鎌倉・太平洋戦争の痕跡』(二〇〇四年)
(2013年9月・片岡 夏実)
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