滑川のコイ

 ちょうど四〇年前の梅雨時、私が通っていた小学校の六年生の手で、滑川にコイが放された。この頃、ひどく汚れていた滑川の水質に、改善のきざしが見られていた。そこで、魚が住めるかを試すために行なわれた放流だった。結果は川を覗いてみるとわかる。今いるのは、このときのコイの子孫だ。コイは長生きなので、中には最初に放された魚がいるかもしれない。
 貫禄のある主のようなコイを見ると、あのときからここに住んでいるのかなと思い、うれしくなるのだが、同時に複雑な気持ちも抱く。当時に比べ滑川は格段にきれいになった。カワセミが飛び、夏にはアユらしき魚が群れる。回復してきた自然の景観の中で、赤や白や金色の魚は場違いに見える。黒ければいい訳でもない。コイは河川の生態系に影響を与えることが、最近ではわかっている。雑食性の旺盛な食欲で、他の魚の卵や稚魚を食べてしまうのだ。
 もちろん、コイに罪があるわけではない。放流した人たちも善意でやったことだ。コイがいることで、川をきれいにしようという意識が高まりもしただろう。しかし、かつてはかわいがられ、豊かな自然の象徴だったタイワンリスが、いつからか害獣にされてしまったのと同じ運命を、コイも背負っていることを思わずにはいられない。

参考資料 『広報かまくら』昭和48年7月1日、49年8月15日、50年2月1日、6月15日号 鎌倉市役所発行

(2013年7月・片岡 夏実)


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