エル・ポヨ・ロコ
90年代の初め、小町通りの中ほどにあった「エル・ポヨ・ロコ」というメキシコ風網焼きチキンのチェーン店を知る人はどれほどいるだろう。
当時あまり外食をしなかった私が、この店に立ち寄り、何度か訪れるようになったのは「網焼き」に惹かれたからだったと思う。実際、余分な脂が落ちて皮がぱりっと焼け、スパイスが効いたチキンは、ファストフードとは思えないほど美味しく、ビールとの相性も抜群だった。
そう、付き合いでもなければ外で呑むことのなかった私が、昼ビールの味を覚えたのもここだ。窓の外に民家の屋根が見え、何となく生活感のある二階席で日の高いうちからビールを呑むと、後ろめたくはあったが、とても贅沢な時間を過ごしている気分にもなれた。
その後、都心に通勤するようになると、たまの休日に人混みに出るのが億劫で、足が遠のいた。しばらくして久しぶりに行ってみると、エル・ポヨ・ロコは消えていた。跡地がどこかすらわからなかった。人が通わなくなった山道が草木に埋もれるように、新しい店や雑踏にまぎれてしまったのだ。
結局エル・ポヨ・ロコは日本から完全に撤退したらしい。少し早すぎたのだろうか、今なら人気が出るような気がする。ウェンディーズのように再上陸しないかな。
(2013年6月・片岡 夏実)
|