大人の雪遊び

 子どもの頃は胸を躍らせて待ち望んだ雪も、大人になると厄介物に思うようになる。だが、出勤しなくてよければ話は別だ。
 東京の会社に勤めて二度目の冬の土曜日、前の夜から降り始めた雪が、朝起きると一五センチほど積もっていた。私はボーナスで買ったカメラを下げ、これも買ったばかりの登山靴を履いて雪の街に出た。
 まだ寒々しい灰色をした雪止みの空の下を、扇ガ谷、鶴岡八幡宮、二階堂、浄明寺と歩いて、雪景色をカメラに収めた。雪が乱雑な日常を覆い隠すと、あらゆるものが美しく感じられ、いつもなら気にも留めない路地や民家の塀にもシャッターを切った。ところが後日できあがった写真(まだフィルム式だった)には、ぐしゃぐしゃの路面や、まだらに白くなった山など肉眼で見た印象とはほど遠い、普段以上に取り散らかったものが写っていて少しがっかりした。降っている最中か人通りがなく気温の低い早朝でなければ、いい写真を撮るのは難しい。
 月曜日の朝、出社すると上司に「おととい浄明寺のあたりをカメラ持って歩いていただろ?」と言われた。なぜ知っているのか問うと、付近で雪道の運転を練習していて見かけたという。同じ日、天園ハイキングコースを歩いていたという社員もいて、酔狂人の多い会社だと自分を棚に上げて思った。

(2013年2月・片岡 夏実)


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