オニグルミ

 子どもの頃住んでいた山の上の家では、秋の深まった風の強い日に、屋根から時々がらんがらんと大きな音がした。オニグルミの実が当たる音だ。家の脇にあったクルミの木は、幹の周囲が三メートルほど、高さはおそらく一〇メートルを超す大木だった。そこから堅い実が落ちてくるのだ。
 実は拾い集めて庭の片隅に貯めておく。食べられない果皮は、やがて朽ちて剥ける。問題は殻だ。簡単に割れる栽培種とは違い、オニグルミは金づちで叩いてもなかなか割れない。
 でも、無理に割らなくてもいい方法がある。焚き火に放り込むのだ。たまに直火に当たって燃えてしまうこともあるが、熾火でじっくり焼くと殻の縦筋が開いてくる。そこに爪を掛けるか、ドライバーをねじ込めば簡単に二つに分かれる。熱々のそれを、顔と手を煤で黒く汚しながら食べるのが、秋の終わりから冬の楽しみだった。
 あのクルミの木と離れて久しい。市販のものも悪くはないが、やはり味が違う。最近、山の中のところどころにオニグルミが自生しているのを見つけた。落ちている実は、ほとんどリスに囓られていた。仕方がない。野山のものは人も動物も平等に早い者勝ちだ。もしおこぼれを頂戴できたら、ウィスキーのつまみにしたいと思う。

(2012年11月・片岡 夏実)


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