市場
鎌倉で前置きなしに「市場」と言うと、たいがい下馬ガード近くにある農協連即売所のことだ。この市場が「レンバイ」の呼び名で雑誌などに取り上げられることがあるが、少なくとも地の人がそう呼んでいるのを、聞いたことがない。別に何と呼ぼうとわかればいいのだが、わざわざわかりにくく言いかえる必要もないだろう。
市場の野菜は美味しい。そして安い。傷ついたり形や大きさが不揃いなキュウリやナスなどなら一山百円で買える。そんなものばかり狙っている私は、たぶん上客ではないが、ここで買い物をするのは楽しい。
市場の野菜を「鎌倉野菜」というが、特別な品種ではないし、特殊な栽培法があるわけでもない。土壌や気候にも特に秘密はない。鎌倉市内、主に横浜や藤沢との市境あたりに広がる畑で収穫されたものを、そう呼んでいるだけだ。市場の野菜が美味しいのは、生産者と消費者が近いから、畑で熟したものが、みずみずしいうちに食卓に上がるからだと思う。
だから東京あたりの料理店が鎌倉野菜を売りにしていると聞くと、苦笑してしまう。もちろん輸送中に鮮度が落ちることもないだろうが、ブランドイメージ以外にわざわざ鎌倉で買付ける意味がないからだ。都内にも畑はあるのだから、そこで取れた地物を使えばいいのに。
(2012年10月・片岡 夏実)
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