花火

 鎌倉花火大会は、私のおそらく一番古い記憶の一部だ。その日は、弟を出産した母が退院する日だった。私は山の上の家から階段を下り、途中の海まで見通せるところで母を待った。遠くに上がる花火を見ていると、弟を抱いた母が、階段を下からゆっくりと登って来た。
 長年、花火大会の日程は8月10日に決まっていた。ここ何年か、8月第二火曜になったり、また元に戻ったりしていたが、2010年から突然七月下旬になった。鎌倉市の広報によれば、その年の8月10日の夜は大潮の満潮と重なって海岸が狭くなるのが主な理由だが、早い開催を望むスポンサーの要請もあったという。
 8月10日は夏休みのちょうど真ん中だが、体感的に後半は前半よりずっと短い。賑やかな花火のあとに、夏の終わりが迫っている。子どもにはたまらなく切ない。それも鎌倉の花火らしいと思っていたのだが、それよりも夏休みの初めに当てて、単純に盛り上げたほうがいいと考える人が多いのだろうか。
 だとしても、それをとやかく言えた義理ではない。私はもう長いこと、人混みを嫌って外に出ず、家で音だけ聞いているからだ。空いた場所があればのんびり見たいと思うが、私が思いつくような場所はどこも人で埋め尽くされているだろう。

(2012年8月・片岡 夏実)


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