オタマジャクシのプール

 横浜国立大付属小学校の運動場の奥に、かつて木造の古く重々しい建物があった。大学の学生寮だ。その昔同じ敷地にあった大学の校舎が、火事で焼失した話を聞いていたので、それ以来誰も住んでいないと思いこんでいた。それは間違いで、二〇年ほど前まで使われていたことを最近になって知った。
 小学三年生になったばかりの春、友達に誘われて寮の裏手に忍び込み、緑色に濁ったプールでオタマジャクシを捕った。よく晴れた穏やかな日だった。日射しは心地よく、水はぬるみ、オタマジャクシたちは水面でしきりに口をぱくぱくさせていた。自分が不法侵入していて、見つかったら叱られるだろうことをつい忘れ、夢中ですくったが、見とがめられることもなかった。これもあとで知ったことだが、ここは学生による自治寮だった。住人は気がついていて、遊ばせておいてくれたのかもしれない。
 そのころ私の家では、庭の隅に大きなポリバケツ(ゴミを入れる青いバケツだ)を置いて、その中で金魚やフナを飼っていた。すくってきたオタマジャクシもそこに放した。やがて足が生え、手が生え、オタマは小さい灰色のカエルになった。そしていつの間にかどこかへ跳ね出していき、戻ってくることはなかった。

(2012年4月・片岡 夏実)


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