お化けトンネルでヒヤリ
一九八〇年代のある冬、大雪が降った数日後のことだった。日陰には雪が消え残っていたが、路面はすっかり乾いていた。もう危険はないだろうと、私はバイクで藤沢に出かけた。家から藤沢方面に向かうには、極楽寺の奥から通称「お化けトンネル」を抜け、常盤に出る。近道だし、大仏前や海岸の混雑に巻き込まれずに済むからだ。
トンネルを出るとすぐ下り坂にさしかかる。ここは山の北斜面で、日当たりが悪く昼でも薄暗いことが多い。そのとき、とんでもない光景が目に飛び込んできた。溶けた雪が凍結して、路面がスケートリンクのようになっていたのだ。私は慌ててブレーキを掛け、歩くほどの速度で氷に乗り上げた。
むしろそのまま走りきったほうがよかったのかもしれない。バイクはスリップしてバランスを崩し、支えようと着いた足も滑って転倒した。スピードは出ていなかったのでケガはなく、バイクも壊れなかったが、バイクを起こそうにも足元が安定しない。それどころか立ち上がろうとすると、斜面をずるずる滑り落ちていく始末だ。セーターを脱いで滑り止めに足の下に敷き、路面が乾いているところまで少しずつバイクを動かしたが、何とか脱出したころには、セーターを着ていないのに汗だくになっていた。
(2012年1月・片岡 夏実)
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