何でもない月

 一月は正月、二月は豆まきと一年中何かにかこつけて酒を呑む「日本全国酒飲み音頭」という歌の中で、十一月は「何でもないけど酒が飲めるぞ」と歌われている。確かに、これといった行事があるわけでもなく、花の便りもあまり聞かれない。紅葉は鎌倉ではもっと後だ。
 今年は九月の台風で木々の葉が縮れて落ちてしまい、紅葉は望めそうにない。それでなくても鎌倉では、海風と暖かい気候のためになかなか鮮やかに色づかない。人工的に植えたものを除けば紅葉する木も少ない。多いのはツワブキのような、潮風に強い厚く光沢のある葉をもった暖地性の植物たちだ。
 何でもない十一月、ツワブキの花は庭の片隅でひっそりと咲く。灰褐色に向かっていく季節の中で、深緑の大きな葉をバックにしたその黄色に引き寄せられた小さなアブが、弱い日射しの下で小刻みに羽をふるわせ、音もなくホバリングしながら蜜を吸う。アブとハチは姿がよく似ているが、飛び方はアブのほうが巧みで面白い。けだるげに滞空しているかと思うと急に向きを変えて突進する。姿勢はそのままに後退したり高度を変えたりする。そんな姿をぼんやりと眺めていると、晩秋の日はゆるゆると過ぎてゆき、そのあとを慌ただしく冬が追いかけてくる。

(2011年11月・片岡 夏実)


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