鎌倉石
ローセキは駄玩具の定番のひとつだ。地面に石蹴りの枠や野球のベースを描いたり、落書きをしたり(時には人の家の塀にも)、子どもには色々と使い道のあるものだ。
でも鎌倉ではローセキを買ったことはおろか、見かけた記憶もない。店頭にあっても、必要がないので気がつかなかったのかもしれない。代わりになるものがいくらでも落ちていたからだ。山から崩れてきた、淡い褐色の粘土の固まりのような柔らかい石だ。砕石として路地の簡易舗装にも使われており、そこらじゅうに転がっていた。私たちはそれを「鎌倉石」と呼んでいた。地面や壁面に何かを描きたいときには鎌倉石を拾えばいい。お金も手間もまったくかからない。
鎌倉石で描いた線は、やや黄色みを帯び、クレヨンのようにねっとりと太い。薄暗くなってもくっきりと見えるので、日暮れぎりぎりまで遊んでいられた。これに慣れてしまうと、鉛筆のようなローセキの線は頼りない。今の子どもたちもこうして遊んでいるか知らないが、切り通しの擁壁などに鎌倉石の筆跡を見ることがたまにある。
最近知ったのだが、この石は正しくは「土丹(どたん)」というらしい。本当の鎌倉石は、石塔や石垣などに使われるざらっとした凝灰岩のことだそうだ。
(2011年10月・片岡 夏実)
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