どこかの木陰

 ある年の夏休みに入ってすぐ、私は弟が関係する子ども会かなにかの行事に参加した。どういうわけなのかわからない。というのは私が小学校に入学してから学区が変更になり、三歳下の弟は私とは違う学校に通っていたからだ。住んでいるところは同じでも学校が別だと、行動範囲も変わる。私は小町や御成町のあたりには不案内だった。弟も鶴岡八幡宮より東はあまりよく知らなかったと思う。
 行事というのは、どこかの寺か神社の境内に小学生が十何人か集まって、スイカ割りや他愛ないゲームに興じ、お菓子をもらって帰るだけのものだ。八月に入れば駆け足で過ぎてゆく夏休みの、それはまだ準備運動のような半日だった。日なたでは白熱した地面の照り返しが目に痛かったが、広い境内は生い茂った雑木が作る緑の陰にひんやりと包まれていた。
 この会場がどこだったのか、どうしても思い出せない。おそらく当時の私にはなじみのない場所にあったのだろう。もちろんそれもあるけれど、涼しい風が吹く心地よい木陰は、寺や神社に、谷の片隅に、誰かの家の庭に、鎌倉のそこかしこにあるあまりになじんだ風景なので、いろいろな記憶と混ざり合ってどことも特定できないのかもしれない。

(2011年7月・片岡 夏実)


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