雨上がり

 小学生のころ、雨が止むとよく網とバケツを持って鶴岡八幡宮に向かった。西の鳥居をくぐってやぶさめ道を通り、参道との交差点の少し手前にある水路を目指す。どこにでもある側溝ほどの幅と深さで、ふだんはあまり水はない。雨が降ると水かさが増え、どこからか魚が流れ込んでくる。それが目当ての子どもたちが、たいてい何人かいた。今では世知辛くなって、そういう行為は歓迎されないかもしれない。
 もちろんいつも魚が捕れるわけではない。それでも足しげく通ったのは、初めて行った日の記憶が鮮烈だったからだ。そのときは父が一緒だった。かなりの大雨のあとで排水路には茶色い濁流が渦を巻き、中はまったく見えない。父はそこに網を突っ込み、やみくもにすくい上げた。網には一度に大中小三匹のフナが入っていた。大きいもので一二センチ程度だったと思うが、私にとってはすごい大物だった。このときほど父を尊敬したことは、後にも先にもたぶんない。
 そのころ家では、庭の隅に生ゴミ用の大きな青いポリバケツを置いて、その中で金魚を飼っていた。三匹のフナもそこに放した。フナたちはそれから何年か生きた。いつも石の陰に潜んでいて、たまに水を換えるときに見るだけだったけれど。

(2011年5月・片岡 夏実)


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