初詣

 大晦日の夜は子どもも寝床へ追い立てられることなく、遅くまで起きていられる。日付が変わり年が改まると、父にせがんで初詣に連れていってもらった。内心、酒を呑んで寝てしまいたかったに違いないが、父は嫌な顔をせず寒い中を付きあってくれた。
 鶴岡八幡宮まで歩いて五分とかからない。山の上の家から階段を下りる途中で、もう境内のざわめきが聞こえてくる。いつもは車が途切れるまでしばらく待たされる車道を、交通規制のおかげで今日は堂々と歩けるのが愉快だ。人込みに紛れると少し寒さがやわらぐが、混雑の中一時間かけて本殿に参拝する気もなく、露店を覗いて小さなダルマや干支の小物を買って帰る。初詣になっていないが、そんなことが何とはなしに楽しく、新年の区切りに思えた。
 何日かしてテレビのニュースが、鶴岡八幡宮の三が日の人出が今年も一〇位以内に入ったことを告げると、いつもの遊び場が全国区になったことを少し誇らしく思った。今では、混むとわかっていてよく出かける気になるなあと呆れるだけだが、間違っているのは私のほうで、人は人が集まるところに行きたがるものなのだろう。寂しいと死んでしまうのはウサギではなく人間なのかもしれない。

(2011年1月・片岡 夏実)


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