痕跡

 70年代の後半、当時ブームだったフィールドアスレチックのコースが稲村ガ崎にできた。小学校の課外授業で行ったことがある。さして印象深いものでもなく、いつの間にかなくなり、場所も忘れてしまった。古い地図に当たると、そんな大がかりなものを造れるとは思えない小さな谷の奥だった。今そこはどうなっているのだろう。
 ほぼ車一台分の幅の道路を登りつめ、右手の山に延びる小道をたどると、雑木に囲まれた小さな神社の境内に出る。この山一帯がコースだったはずだ。なくなってから30年近くたつので何かが残っているとは期待していなかった。しかし祠の脇には小屋の残骸らしいものや、太いロープでがっちり編んだ網があった。 木々の間には、意味あり気な結び目がついたロープがかけ渡してある。裏の笹藪にも小屋があった。屋根がはがれ、中から木が突きだしている。自然の木を利用したツリーハウスにも見えるが、放置されたあと床下から木が伸びたようでもある。これらはかつての遊具なのだろうか。廃品を利用した何かかもしれない。でもそれは確かに当時の痕跡だった。
 感慨のようなものが湧くかと思ってしばらく見ていたが、記憶が蘇ることはなかった。耳を澄ましても30年前の子どもの歓声が聞こえて来るはずもない。

(2010年10月・片岡 夏実)


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