隣はお墓

 「鎌倉に住みたいけれど、お墓の近くは怖い」と言う人がいた。鎌倉はどこへ行っても寺があり、寺には墓地があるので、そんなことを気にしていたら住めない。私の家の近所にも墓地があるが、怪異な現象を見聞きすることもなく、夜中にも平気で前を通っている。しかし、墓地の隣に住むというのはどのような気分だろう。
 数年前、ある谷の道を歩いていた。谷の入口にある寺の墓地が民家を背にして、道沿いに続いている。車一台分ほどの幅の道路と墓地の間に、垣根など明確な境界はない。その先では、墓地に囲まれるように数軒の家が建っていた。まるで墓場の中の家だ。そこから谷の奥まで墓石が並んでいた。陰気な感じは受けなかった。谷は東西に伸び、奥へ行くにつれ広がっているので、谷間にしては空が広く、開放感がある。ここに住んでみたいと、少し思った。 墓場の中の家なんて『ゲゲゲの鬼太郎』みたいで風情があるじゃないか。
 でも、やはり墓地のあまりに近くに住むのは、止めておいたほうがいいかもしれない。幽霊は出ないけれど、蚊がたくさん出る。花立ての水がボウフラの発生源になるからだ。ただでさえ鎌倉には蚊が多いのに。

(2010年9月・片岡 夏実)


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