梅雨の風物詩

 梅雨時、アジサイ見物の人々で鎌倉は混む。アジサイなどどこにでもありそうなものだが、他所から来た人は、鎌倉のものは特に見事だという。谷(やと)の湿気と日陰が生育に向いているらしい。それは別のある生き物の生育にもおそらく向いている。
 この時期、夜眠っていると腕や脚におかしな感触を覚えることがある。まず尖ったものを差し込まれたような鋭い痛みを感じ、寝ぼけた頭が事態を把握する頃には、熱いものがじくじく浸透していくような不快感がやってくる。あわてて飛び起きると、布団の上で長さ10センチ近いムカデとご対面する。
 繁殖期を迎えたムカデが家に上がってきて、夜中に布団の中まで入りこみ、吸血するわけでもないのに人を咬むことがあるのだ。虫の居所でも悪いのだろうか。げんなりしながらこれを退治し、次に咬まれたところを手当てする。ムカデが見つからなかったり逃げたりすれば、また出てくるのではないかと疑心暗鬼で一晩過ごすことになる。
 こんなことがひと夏に一度くらいはあるのだが、家のまわりに強力な殺虫剤をまく気にはなれない。愛すべき虫は色々いるし、ムカデにしたってきっと必要な存在なのだろうから。もちろん私の寝床以外での話だが。

(2010年7月・片岡 夏実)


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