ヘビおじさん
鶴岡八幡宮の源氏池の南側は、ぼたん園に囲い込まれ、外周には塀が巡らされて入場料を払わなければ入れない。ぼたん園ができる前、外部との境界は出入り自由な低い土手だけだった。土手の上は草木が茂り、空き缶や自転車の古タイヤが雑然と打ち捨てられ、観光客が来ることもあまりないので小学生には格好の遊び場だった。
ある日、友達と遊んでいると、五十がらみの男性がやってきて、肩に掛けた大きなヘビを得意げに見せびらかした。シマヘビだと、おじさんは言った。私たちはこわごわ、まわりに集まった。その時、故意かうっかりか、おじさんが手をゆるめ、ヘビが這い出した。みんなクモの子を散らすように逃げた。シマヘビは毒は持たないが気性が荒い。図鑑で見たコブラのように鎌首をもたげ、牙をむいて私のほうへ迫ってきた。私は後に飛びのいた。ヘビは向きを変え、するすると木に登っていった。ほっとすると同時に、自分がヘビを逃がしたような気がして、少し責任を感じた。おじさんは別に怒っていなかったし、私に捕まえられたはずもないのだけれど。
外部と分断され、小ぎれいに管理されたぼたん園に、子どもや怪しい大人の居場所はない。でもヘビくらいは今もいるかもしれないし、いて欲しいと思う。
(2010年5月・片岡 夏実)
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