江ノ電通学

 小学校五年の三学期に、裏八幡から長谷に引っ越した。あと一年で卒業なので、転校せず今までの学校に江ノ電に乗って通うことになった。江ノ電は年に数回、海水浴や江ノ島に行くときに乗る特別な電車だと思っていたから、学校の行き帰りに毎日乗れるのはうれしかった。
 一カ月もすると慣れて日常の一部になったが、毎回ちがう型の電車に乗れるので、飽きることはなかった。中でも、二両編成の車両の間に通路がない、田舎の電車というたたずまいの列車が好きだった。連結部分の窓際に立ってもう一方の車両を眺めていると、独立した電車がすぐ前後を走っているようで面白かったし、夏はここにいれば冷房がなくても風通しがよくて快適だった。
 やがて新型車が導入され始め、こうした旧型車は姿を消していった。新型は確かに格好がいいけれど、洗練されすぎて未だに江ノ電らしい感じがしない。新型と言っても、最初に登場した一〇〇〇形は現役車両で二番目に古く、導入当時のほとんどの車両より車歴が長いのだが。子どもの頃に見ていた大人たちの歳をとうに追い越しているのに、その人たちほど自分が大人らしく思えないことと少し似ている。

(2010年3月・片岡 夏実)


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