冬のピストル

 学校の近くや通学路沿いには、たいてい文房具店がある。小学生のころの行きつけの店は、通学路をはずれて信号を渡ったところにあり、登校途中に寄るには少し不便だったが、自宅や遊び場だった鶴岡八幡宮からは近いので自然と足が向いた。文具のほか、店内にはメンコやリリアンのような駄玩具、プラモデル、工作材料などが並び、食べ物こそないが駄菓子屋的な店だった。
 そこで私は一回一〇円か二〇円のくじをずいぶん引いた。ほとんどは残念賞で、もらったのはキャラメルのオマケのようなものだったけれど、一度、一等だか二等のダイカスト製のピストルを当てた。紙火薬をはさんで鳴らすだけの今考えれば他愛もないものだが、銀玉鉄砲と水鉄砲くらいしか見たことのない私にとって、金属製でずっしりと重いそれは、本物とおもちゃの中間くらいの大人の匂いがするものだった。冬の終わりの薄日に銀色のメッキが鈍く光った。ポケットの中で銃把を握り締め、おでんの湯気がほの温かく漂うはちまんさんの茶店の前を、私はいつもより少し大股に歩いていった。
 何年か前、久しぶりに店の前を通ると、以前の数軒並びに移転し、店名はそのままに商売替えしていた。入ってみようと思いながら果たせずにいるうちに、最近はシャッターが下りたままになっている。

(2010年2月・片岡 夏実)


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