人のいない鎌倉

 鎌倉がこんなに混雑するようになったのは、いつのことだろう。もちろん昔から観光シーズンの週末や祝祭日には混みあった。それでも時期も曜日も問わず人が出ているわけではなく、空いているときと混んでいるときがあったと思う。今は混んでいるときと途方もなく混んでいるときしかない。
 それでもなにかの折りに、混雑から解放されることがある。たとえば季節の変わり目、花が散り次の花が咲くまで。あるいは紅葉が終わってクリスマスの喧騒も過ぎてから、初詣の人波が押し寄せるまでの狭間の時間がそうだ。このころ、鎌倉はつかの間ぽっかりと穴があいたように閑散とする。人影もまばらな鶴岡八幡宮の境内では、地面に引かれた屋台の区割りの白線が、新年を待ってひっそりと眠っている。ぼんやりと見ていると、ふと自分以外だれもいないという錯覚に陥る。夢に出てきたモノクロの場面のように風景が現実味を失い、どこまでも透きとおる限りなく厚いガラスに隔てられたように、目の前にありながら遠く感じられてくる。
 この光景も数日後には雑踏に呑み込まれる。正月は年が生まれ変わる清新な時とされるが、ここでは新年は猥雑で、ゆく年こそが清々しい。

(2009年12月・片岡 夏実)


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