小町通りの色

 今ではすっかり観光地になっている小町通りも、私が子どものころは普通の商店街で、地元に密着した店が並んでいた。そんな店のひとつに小さな釣具店があった。店主の顔も客の姿も見た覚えがないが、永く開いていたので決して流行っていないわけではなかったのだろう。
 釣具店に用事はなかったので足を踏み入れたことはないが、何となく気になって、前を通るたびに横目で眺めていた。店の奥は覗き込みでもしないかぎり外からは様子がうかがいにくかったが、私が見ていたのは店先に並んだガラスかプラスチックの透明な容器に詰め込まれた、赤と黄色の蛍光色をした大小さまざまな玉ウキだった。そこだけが照らし出されたように光が暖かくにじんで、今にも転げだしそうな楽しげなものたちに見えた。いつか釣りをすることがあれば、ここであのウキを買おう。そう思いながら果たすことなく、いつの間にか店はなくなっていた。 赤と黄色のウキは海辺の釣具店で買った。
 今、あの店があったとして、私はやはり目を留めるだろうか。それとも騒々しい色の波に蛍光色のウキさえも沈んでしまうのだろうか。

(2009年5月・片岡 夏実)


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