ガイドブックに載せない鎌倉

 今回からこのコラムに「鎌倉道草案内」というタイトルがついた。その名の通り、道草を食ってばかりでいつまでも目的地につかない、目的地があるのかどうかもわからない、そんなことばかり書くつもりでいる。
 鎌倉に住んでいますと言うと「いいところにお住まいですね」という言葉が返ってくる。どこに住んでいると言ったって社交辞令で同じことを言われるのだろうけれど、そのたびに、いや、住んでいるとよさがわからないものですよ、よそから来た方のほうがいろいろとよくご存じですねと、なぜか言い訳がましく応える。
 実際、観光地や流行りの店のことなら観光客のほうがよく知っている。どこかに穴場があるんじゃないかと考える向きもあるだろうが、最近は穴場だって、すぐ雑誌に載り、テレビで放送され、気がつくと穴だったところに小山がそびえている。何しろ世の中にはガイドブックに載らないことを売りにするガイドブックがあるのだから。
 観光客が知らず、私が知っている鎌倉があるとすれば、そもそも誰もガイドブックに載せようと思わないもの。あるいはむかし載っていたが今ではなくなってしまったもの。そんなことがこのコラムのテーマになる。つまりまったくどうでもいいものだ。それはもしかすると、全然鎌倉らしくないのかもしれない。でも鎌倉にそんな一面もあることが伝われば、それはそれでいいと思う。

(2009年1月・片岡 夏実)


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